給付金の支払発生率が、医療保険の原価?―日経のデタラメ記事。
9月18日の日本経済新聞・朝刊に、医療保険の給付金支払い発生率についての記事がありました。
記事によりますと、
〈 生命保険会社の販売する医療保険で、保険料に対する保険金支払いの比率が3割前後であることがわかった。生保各社が今夏にまとめたディスクロージャー誌で初めて明らかにした。
この比率は医療保険の「原価」を示す。年度中に支払った保険金や給付金を保険料収入で割った数値で、「発生率」と呼ばれる。金融庁が2006年度からの開示を求めていた。開示対象は医療保険、がん保険など「第三分野」の商品だ。〉
とのことです。
…契約者が支払う保険料に含まれる、将来の給付金の支払に備えるための「純保険料」を「保険の原価」というのならともかく、給付金の支払発生率を保険の原価とは…いくらなんでも無茶苦茶です。無知にも程があります。
…今回、医療保険の給付金支払発生率が開示されたのは、保険会社において医療保険などいわゆる第三分野商品の適切なリスク管理が行われ、将来の保険金等の支払いのための積立が可能となるよう今年から実施となった、「第三分野の責任準備金積み立てルール・事後検証等」の中で、保険会社に義務付けられている以下のことを行ったためです。
①適時・的確な事後検証等による保険料積立金の必要な積立額の確保。
②ストレステスト*1による危険準備金*2の十分な積立水準の確認。
③①及び②の実施状況等の開示。
*1.ストレステスト
毎決算期に、商品ごと予め設定した予定事故発生率が十分なリスクをカバーしているか確認するもの。実績の保険事故発生率等に基づいてテスト実施期間(10年間)の実施率に関するリスクの99%をカバーする発生率(危険発生率A)を予測し、将来発生する保険金額と予定発生率に基づく保険金額を比較して、予定発生率に基づく保険金額が大きければ保険料積立が十分と判断し、逆に下回っていれば、保険料積立金が不十分として危険準備金を積み立てる。
第三分野の保障内容やリスクの範囲が多岐にわたっており、商品により異なっていることから、保険事故発生率の将来予測において、どのようなモデルを設定するかは、保険会社が合理的に見込むこととする。
*2.危険準備金
「通常の予測を超える範囲のリスク」に対応するために積み立てるお金のこと。将来の保険金等の支払に備えて積み立てる「責任準備金」の1つ。
*出典:第三分野の責任準備金積立ルール・事後検証等の概要について。
…つまり、給付金の支払発生率の開示は、保険会社が適切なリスク管理が出来ることなどを目的とした上記ルール中の、「ストレステストによる危険準備金の十分な積立水準の確認」の実施状況等の開示なのです。
したがって、日経の「医療保険の原価初公表」は明らかに間違った報道なのです。
…9月18日朝刊の記事は、生保各社のディスクロージャー誌を見ただけで、金融庁、保険会社双方をほとんど取材せずに書き上げた、デタラメ記事である―と管理人は考えております。
【記事の内容】
以下、記事の内容です。
【医療保険の「原価」初公表―大手生保4社は30%台】
生命保険会社の販売する医療保険で、保険料に対する保険金支払いの比率が3割前後であることがわかった。生保各社が今夏にまとめたディスクロージャー誌で初めて明らかにした。
この比率は医療保険の「原価」を示す。年度中に支払った保険金や給付金を保険料収入で割った数値で、「発生率」と呼ばれる。金融庁が2006年度からの開示を求めていた。開示対象は医療保険、がん保険など「第三分野」の商品だ。
日本、第一、住友、明治安田の大手4社の発生率は31.8~38.3%。大手は死亡保険に付いた満期のある医療特約が中心だ。死ぬまで保障が続く終身型の医療保険が中心の外資系はアフラックが22.9%、アリコジャパンが20.7%。終身は契約当初に多めに保険料を取るため数値が低くなる。
一部の専門家からは「保険料を取りすぎではないか」との指摘が出ている。大手生保が医療保険の保険料を算出するのに使う入院などのデータは、1980年代初頭の数値とされる。「当時より入院日数が短くなり入院給付金の支払いも減っているのに保険料を多めに取っている」(保険数理の専門家)という。
これに対して生保側は「新商品を開発するたびに保険料算出の妥当性を見直している」と反論する。保険料の一部が将来の保険金支払いに備えた「準備金」に回っている面もあるという。
*第三分野の責任準備金等に関する過去記事があります。こちら。
「第三分野(医療・介護等)」保険の支払い余力に金融庁が新ルール。
医療保険の今後の課題を知るには、日経よりもこの一冊がお勧めです。民間医療保険の戦略と課題
以上です。
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記事によりますと、
〈 生命保険会社の販売する医療保険で、保険料に対する保険金支払いの比率が3割前後であることがわかった。生保各社が今夏にまとめたディスクロージャー誌で初めて明らかにした。
この比率は医療保険の「原価」を示す。年度中に支払った保険金や給付金を保険料収入で割った数値で、「発生率」と呼ばれる。金融庁が2006年度からの開示を求めていた。開示対象は医療保険、がん保険など「第三分野」の商品だ。〉
とのことです。
…契約者が支払う保険料に含まれる、将来の給付金の支払に備えるための「純保険料」を「保険の原価」というのならともかく、給付金の支払発生率を保険の原価とは…いくらなんでも無茶苦茶です。無知にも程があります。

…今回、医療保険の給付金支払発生率が開示されたのは、保険会社において医療保険などいわゆる第三分野商品の適切なリスク管理が行われ、将来の保険金等の支払いのための積立が可能となるよう今年から実施となった、「第三分野の責任準備金積み立てルール・事後検証等」の中で、保険会社に義務付けられている以下のことを行ったためです。
①適時・的確な事後検証等による保険料積立金の必要な積立額の確保。
②ストレステスト*1による危険準備金*2の十分な積立水準の確認。
③①及び②の実施状況等の開示。
*1.ストレステスト
毎決算期に、商品ごと予め設定した予定事故発生率が十分なリスクをカバーしているか確認するもの。実績の保険事故発生率等に基づいてテスト実施期間(10年間)の実施率に関するリスクの99%をカバーする発生率(危険発生率A)を予測し、将来発生する保険金額と予定発生率に基づく保険金額を比較して、予定発生率に基づく保険金額が大きければ保険料積立が十分と判断し、逆に下回っていれば、保険料積立金が不十分として危険準備金を積み立てる。
第三分野の保障内容やリスクの範囲が多岐にわたっており、商品により異なっていることから、保険事故発生率の将来予測において、どのようなモデルを設定するかは、保険会社が合理的に見込むこととする。
*2.危険準備金
「通常の予測を超える範囲のリスク」に対応するために積み立てるお金のこと。将来の保険金等の支払に備えて積み立てる「責任準備金」の1つ。
*出典:第三分野の責任準備金積立ルール・事後検証等の概要について。
…つまり、給付金の支払発生率の開示は、保険会社が適切なリスク管理が出来ることなどを目的とした上記ルール中の、「ストレステストによる危険準備金の十分な積立水準の確認」の実施状況等の開示なのです。
したがって、日経の「医療保険の原価初公表」は明らかに間違った報道なのです。
…9月18日朝刊の記事は、生保各社のディスクロージャー誌を見ただけで、金融庁、保険会社双方をほとんど取材せずに書き上げた、デタラメ記事である―と管理人は考えております。
【記事の内容】
以下、記事の内容です。
【医療保険の「原価」初公表―大手生保4社は30%台】
生命保険会社の販売する医療保険で、保険料に対する保険金支払いの比率が3割前後であることがわかった。生保各社が今夏にまとめたディスクロージャー誌で初めて明らかにした。
この比率は医療保険の「原価」を示す。年度中に支払った保険金や給付金を保険料収入で割った数値で、「発生率」と呼ばれる。金融庁が2006年度からの開示を求めていた。開示対象は医療保険、がん保険など「第三分野」の商品だ。
日本、第一、住友、明治安田の大手4社の発生率は31.8~38.3%。大手は死亡保険に付いた満期のある医療特約が中心だ。死ぬまで保障が続く終身型の医療保険が中心の外資系はアフラックが22.9%、アリコジャパンが20.7%。終身は契約当初に多めに保険料を取るため数値が低くなる。
一部の専門家からは「保険料を取りすぎではないか」との指摘が出ている。大手生保が医療保険の保険料を算出するのに使う入院などのデータは、1980年代初頭の数値とされる。「当時より入院日数が短くなり入院給付金の支払いも減っているのに保険料を多めに取っている」(保険数理の専門家)という。
これに対して生保側は「新商品を開発するたびに保険料算出の妥当性を見直している」と反論する。保険料の一部が将来の保険金支払いに備えた「準備金」に回っている面もあるという。
*第三分野の責任準備金等に関する過去記事があります。こちら。
医療保険の今後の課題を知るには、日経よりもこの一冊がお勧めです。
以上です。
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この記事へのコメント
一般課程からやり直し!!(●`ー´●)ですね。
「保険料を多めにとっている」というアクチュアリーさんのコメント・・・ん~、話の一部を都合のいいように抜粋しただけのような気がします。
一杯のラーメンの原価のうち、麺の束だけ取り上げて原価って言っているのと同じです。お店によっても異なりますが、ラーメンの麺の束の仕入れ価格は、5円~10円くらいでしょうか?
20年前にラーメン屋さんから聞いた話しですから、当てにはなりませんが(笑)しかし、プロパガンダっぽい記事が多いように思えて嫌になりますね。無償でブログやっている人間(私みたいな奴)が書く分にはまだ可愛いもので、お金とって書く新聞がこの程度だとガッカリです。要は保険会社は保険料取りすぎって言いたいのでしょう。確かに経営努力によって、購入しやすい保険料水準を実現する必要はありますが、値決めは消費者の側になるのでは無く、メーカーないしは販売者の自由ですよね。銀座の高級料理店で、このマグロの原価は幾ら?もっとまけてよ!っていうのと同じ次元です。・・違ったかな(笑)
一番コメントありがとうございます。
…今回の記事を見て思わず「ハ?何言っているの!?」と突っ込んでしまいました。一般課程どころか新聞記者として一からやり直しでしょう。
…アクチュアリーのコメント、私も同感です。記事っぽく仕上げるために何ら関係のない記事か何かから引っ張り出してきたのではないでしょうか。
コメントありがとうございます。
…今回の記事は、いくら記者が保険について何も知らない素人とはいえ酷すぎますよ。
確かに、最近はプロパガンダっぽい記事や、一部の専門家の個人的思想を布教する宗教的記事が目立つようになり、嫌になります。
…保険料の取りすぎだとか何とか言いますが、その根拠は何なのでしょうかね?
この度は医療保険についての記事でありましたが、生命保険商品について質問があります。
色々と生保会社は言い訳を並べますが、日本の生命保険料率は諸外国の保険料率に比べて2倍程度高いのは何故なのでしょうか?
特に米国と比べると3倍も高い商品がありますが何故なのですか?
新聞記事を批判するのではなく、キチンとディスクローズしない生保業界にこそ問題があるのではないでしょうか?
初コメントありがとうございます。
>日本の生命保険料率は諸外国の保険料率に比べて2倍程度高いのは何故なのでしょうか?
特に米国と比べると3倍も高い商品がありますが何故なのですか?
>>このようなご指摘は、特に国内生保の定期保険の保険料に対してされていることは存じております。
さて、その理由ですが公式なことは私も存じません…おっしゃるとおり開示されておりませんので、ただ、個人的な見解ですが、諸外国より保険料が高い理由は営業職員の大量採用・大量切捨てにより、相当な人件費が消耗されているため、その回収をするために人件費の元となる「付加保険料」を高めに設定していることが、大きな原因と思われます。
なお、今回の日経の記事についてはどう考えても明らかな間違いであるので批判しました。
市場原理からいえば、もっと安い保険が出てきてもいいはずだし、ネットライフなんかはそこを狙ってる。いまの保険業界は、会社も代理店(営業パーソン)も契約者も全部が幸せになっていないビジネスモデルと感じます。そこを解決する会社は今後支持されるんじゃないでしょうか?
コメントありがとうございます。
…まぁ確かに付加保険料云々ということを言いたいのでしょうが…いくらなんでも発生率を原価といってしまうのは論外ですね。
今回の記事を書いた日経の記者には一から勉強しなおしてほしいものです。
…単年度では破綻状態の漢字生保、は破綻同然の状態から、株価の回復やゼロ金利解除等の運用環境の改善により現時点ではとりあえず危機を脱しているものと思われます(あくまで個人的な観測ですが…)。
>いまの保険業界は、会社も代理店(営業パーソン)も契約者も全部が幸せになっていないビジネスモデルと感じます。そこを解決する会社は今後支持されるんじゃないでしょうか?
>>このことは以前から主張されてますね。管理人も同感です。そのためにもまずは、営業パーソンを使い捨てることをやめるべきではないかと存じます。