生保破綻の内的要因、約6割は経営者に関するもの。

8月22日の日本経済新聞・朝刊に、管理人の知的好奇心のツボを刺激する論文がありました。

それは、【経済教室】に掲載された植村信保氏の「生保経営 統治向上急げ」という論文です。タイトルの通り、結びにかけて、生保の企業統治を向上させるためになすべきことを提言しているのですが、そこに至る前に、以下の箇所で、管理人の知的好奇心のツボが思い切り刺激されました。

< 生保マーケットの構造変化が進む今こそ、破綻生保の経験に学ぶべきではないか。英国では、世界最古の生保、エクイタブル生命が2000年に実質破綻したのを受け、04年に独立調査委員会が同社の経営責任を追及する「ペンローズ報告書」を発表。破綻要因を詳細に分析している。

 ところが、日本では、97年から01年にかけて相次いで破綻した中堅生保7社の個々の事例を調査・分析し、その教訓を生かす取組みがほとんど行われてこなかった。破綻数こそ少ないが、日本の破綻生保の総資産シェア合計は10%以上に達する。

 そこで筆者はペンローズ報告書にならい、平成生保破綻の要因分析を行った。公表資料や当時の報道に加え、情報公開請求で大蔵省の検査報告書を入手。さらにオーラル・ヒストリー(口述記録)と呼ばれる手法を使い、当時の経営者、企画・数理・資産運用部門など生保破綻の関係者への大規模インタビューで経営に関する証言を集めた。

 このインタビューをもとに経営に内部に迫り、内的要因が経営において果たした役割に関し会社ごと詳細に検証した。次に破綻リスクを高める内的要因と筆者が判断した経営内部の事象を400近く抽出し、これらの共通事項を探り、最終的に19の小グループに分類。これを整理して3つのカテゴリーにまとめた。

 平成の生保破綻は、バブル崩壊後の厳しい経済環境の中で発生した。このため、バブル崩壊による株価下落、80年代の高予定利率貯蓄性商品の集めすぎ、不十分な行政当局の監督など、破綻は構造的な問題で、個者の経営努力ではどうしようもなかったという見方が根強いようだ。

 だが今回の分析で浮き彫りになったのは、バブル崩壊などの外的要因が生保経営に与えた影響も決して小さくはないが、会社が破綻に至るにはビジネスモデルや経営者、経営組織といった、その会社固有の内的要因が重要な意味を持っていたということだ。

 なかでも、最も重要な内的要因は経営者に関するものだった。すなわち、破綻生保のコーポレートガバナンス(企業統治)が十分でなかったことが、破綻リスクを高める要因になったと考えられる。東邦生命保険や千代田生命保険のように、経営トップやその周辺の人物が不適切な経営を行なったケースもあれば、第百生命保険のように経営陣のリーダーシップが弱かったケース、協栄生命保険のようにトップが実質的に引退してから「経営の空白」というべき状況に陥ったケースもある。

 こうした経営陣の問題は、経営内容が悪化してから一段と鮮明になった。「経営が厳しくなっても従来の拡大路線がなかなか改まらなかった」「政策保有株式の売却を決めたのになかなか実行できなかった」などの行動が見られ、経営陣は概してその場しのぎの対応に終始し経営内容が一段と悪化した。決算を乗り切るため、高リスク運用で一発逆転を狙う動きも頻発した。

 内外からの経営チェック機能やリスク管理体制もほとんど機能していなかった。社内では総じて営業部門の発言力が強く、数理部門や資産運用部門が警鐘を鳴らしても、経営を動かせなかった。一定のリスク管理体制が整備されていたのに、トップの威光を背景にリスク管理が骨抜きになったケースも見られる。

 なお経営チェック機能として当時の大蔵省の力は非常に大きく、各社の経営陣に「最後は大蔵省が何とかしてくれる」という幻想を抱かせた。実際は経営内容の悪化した生保に介入した例は少なく、結果的に破綻を回避させるほどの指導力を持たなかった。>


…当時の経営陣や重要な部門にいた者たちが、①バブル期から崩壊においてどのような判断をしていたのか、②経営悪化が進む中どのように会社を立て直そうとしたのか、など非常に興味があります。できることなら出版してほしいものです。

【論文の内容】
以下、論文の内容です。

【経済教室・「生保経営 統治向上急げ」 植村信保 格付投資情報センター・チーフアナリスト】
◇ポイント
・90年代破綻生保に監視大規模な調査実施
・破綻の背景に経営者に関する「内的要因」
・経営実態の把握にEVなどの活用を


 生命保険業界は長引く不払い問題の影で、マーケットの構造変化が進んでいる。主力だった死亡保障市場が一段と縮小する一方、今後の成長が期待できる医療保障や個人年金など「生きるための保障」が脚光を浴びている。例えば、金融機関を通じた変額個人年金事業は、2002年秋の解禁からわずか5年で資産規模15兆円超に達し、内外からの新規参入が跡を絶たない。

 この「生きるための保障」分野では、銀行や保険ショップなどの外部チャネル、それも複数の保険会社の商品を取り扱うところが目立つ。外部チャネルでは生保が販売会社に選ばれる立場であり、手数料や商品開発の競争が激しくなりがちだ。先の変額年金では、有力な販売会社を確保するため、身を削った競争が起きている。近年の新商品を見ると、ハイリターンが狙えるのに元本保証があったり、運用成果が1日でも目標に達したら保証額が切り上がったりと、生保が抱えるリスクが一段と高まる方向にある。

 同様の光景は過去にもあった。1997年の日産生命保険の経営破綻の原因は、バブル期に金融機関と提携し、保証利率(予定利率)の高い個人年金を売りすぎたことだった。販売の主導権は金融機関(正確にはその代理店)が握り日産生命のコントロールが効かなくなったという。運用環境悪化を受け、提携先に販売抑制を求めても、大半の金融機関が応じなかった。

 生保マーケットの構造変化が進む今こそ、破綻生保の経験に学ぶべきではないか。英国では、世界最古の生保、エクイタブル生命が2000年に実質破綻したのを受け、04年に独立調査委員会が同社の経営責任を追及する「ペンローズ報告書」を発表。破綻要因を詳細に分析している。

 ところが、日本では、97年から01年にかけて相次いで破綻した中堅生保7社の個々の事例を調査・分析し、その教訓を生かす取組みがほとんど行われてこなかった。破綻数こそ少ないが、日本の破綻生保の総資産シェア合計は10%以上に達する。

 そこで筆者はペンローズ報告書にならい、平成生保破綻の要因分析を行った。公表資料や当時の報道に加え、情報公開請求で大蔵省の検査報告書を入手。さらにオーラル・ヒストリー(口述記録)と呼ばれる手法を使い、当時の経営者、企画・数理・資産運用部門など生保破綻の関係者への大規模インタビューで経営に関する証言を集めた。

 このインタビューをもとに経営に内部に迫り、内的要因が経営において果たした役割に関し会社ごと詳細に検証した。次に破綻リスクを高める内的要因と筆者が判断した経営内部の事象を400近く抽出し、これらの共通事項を探り、最終的に19の小グループに分類。これを整理して3つのカテゴリーにまとめた(表)。

破綻生保の内的要因
1.ビジネスモデルに関するもの(約2割)
(例)歴史的背景の果たした役割
  社内文化の問題
  採用した経営戦略・ビジネスモデルの問題

2.経営者に関するもの(約6割)
(例)トップの適性の問題
  トップ周辺の不適切な行動
  マネジメントの弱さ

3.経営組織に関するもの(約2割)
(例)組織内のけん制機能の不備
  リスク管理体制の不備
  営業部門の発言力が強い

(注)破綻生保の関係者による口述記録などから破綻リスクを高める内的要因と筆者が判断した経営内部の事象を400近く抽出し、これを分類した。

 平成の生保破綻は、バブル崩壊後の厳しい経済環境の中で発生した。このため、バブル崩壊による株価下落、80年代の高予定利率貯蓄性商品の集めすぎ、不十分な行政当局の監督など、破綻は構造的な問題で、個者の経営努力ではどうしようもなかったという見方が根強いようだ。

 だが今回の分析で浮き彫りになったのは、バブル崩壊などの外的要因が生保経営に与えた影響も決して小さくはないが、会社が破綻に至るにはビジネスモデルや経営者、経営組織といった、その会社固有の内的要因が重要な意味を持っていたということだ。

 なかでも、最も重要な内的要因は経営者に関するものだった。すなわち、破綻生保のコーポレートガバナンス(企業統治)が十分でなかったことが、破綻リスクを高める要因になったと考えられる。東邦生命保険や千代田生命保険のように、経営トップやその周辺の人物が不適切な経営を行なったケースもあれば、第百生命保険のように経営陣のリーダーシップが弱かったケース、協栄生命保険のようにトップが実質的に引退してから「経営の空白」というべき状況に陥ったケースもある。

 こうした経営陣の問題は、経営内容が悪化してから一段と鮮明になった。「経営が厳しくなっても従来の拡大路線がなかなか改まらなかった」「政策保有株式の売却を決めたのになかなか実行できなかった」などの行動が見られ、経営陣は概してその場しのぎの対応に終始し経営内容が一段と悪化した。決算を乗り切るため、高リスク運用で一発逆転を狙う動きも頻発した。

 内外からの経営チェック機能やリスク管理体制もほとんど機能していなかった。社内では総じて営業部門の発言力が強く、数理部門や資産運用部門が警鐘を鳴らしても、経営を動かせなかった。一定のリスク管理体制が整備されていたのに、トップの威光を背景にリスク管理が骨抜きになったケースも見られる。

 なお経営チェック機能として当時の大蔵省の力は非常に大きく、各社の経営陣に「最後は大蔵省が何とかしてくれる」という幻想を抱かせた。実際は経営内容の悪化した生保に介入した例は少なく、結果的に破綻を回避させるほどの指導力を持たなかった。

 破綻した中堅生保には、例外なく会社内部に破綻リスクを高める内的要因ともいえるものが存在した。それは1つではなく、複数が重なった例が多い。これら内的要因に経営環境の変化(外的要因)が加わり、財務構造悪化などの将来の経営危機の兆候が生じた。

 この段階で経営が兆候に気づき、適切な対応をとっていれば、その後の経営危機を回避できたかもしれない。しかし、再び何らかの内的要因が作用して、経営が適切な対応を取れない状況が続く、あるいは、不適切な対応をしてしまう。そこに、さらなる外的要因が加わる、といった内的要因と外的要因の連鎖によって、各社は最終的に経営破綻に追い込まれている。

 したがって企業統治を向上させ、破綻リスクを高める内的要因をコントロールすることこそが、破綻例から得られる最も重要な教訓といえる。

 統治面を強化するために必要な取り組みは経営組織の見直しである。統治が働きやすい組織を構築できれば、経営者に起因する破綻リスクを小さくできる可能性がある。経営陣自らがリスク管理への意識を高めるだけでなく、経営内部でのけん制機能強化や、行政や市場からの規律が働くような仕組みづくりが必要だ。

 さらに、統治向上に有効なのは、経営内容を「見える」ようにすることだ。破綻事例では「(アクチュアリーなどの専門家が)問題を指摘していたが、営業部門の声が強く、経営が動かなかった」との証言が目立った。当時の中堅生保では「規模」と「三利源(損益を発生源別に分解したもの)」だけが会社全体に認識されていた指標だった。そこから外れた数値を一部の専門家が示しても、経営も、営業も納得しなかったのだろう。

 しかし、社内に経営実態がきちんと示され、それに基づいた経営目標が与えられるようになれば、情況はかなり変わるはずだ。経営者の適性も今より早い段階で評価できる。それには残念ながら現行の会計情報でだけでは全く不十分だ。例えばEV(エンベディッド・バリュー)のような、より経営実態に近い指標を活用していくべきだろう。

 EVは生保授業の株主価値評価・業績評価手法で、「修正純資産」+「保有契約価値」として計算される。このうち保有契約価値は、すでに獲得した契約が将来生み出す利益から。一定の資本コストを控除したうえで、生保事業のリスクプレミアムを勘案して計算した現在価値の金額である。大胆にいえば、保険会計の枠を超え、生保の経営内容を「見える」ようにしたものだ。EVの計算方法には改善点も多く、前提の置き方で数値が大きく変わるという弱点もあるが、生保の経営目標を単なる契約動向や収入保険料、あるいは会計上の利益を追求するものから変えるための有効なツールとなりえよう。


以上です…ふうε=(-.-;)。

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この記事へのコメント

2008年08月24日 23:55
こんにちは。
植村さんの論文ですが、本として来月に出版されますよ。タイトルはまだ仮称ですが、「平成生保破綻の真実」です。
私も購入しようと思います。
現役保険営業マン
2008年08月25日 00:38
うるめさん、こんばんは。
コメント&情報提供ありがとうございます。
来月になったら、アマゾンの和書カテゴリーページをチェックしまくりですね。
発売が楽しみです^^。
がくがくダック
2008年08月25日 18:54
いつもいつも、長いコメントご苦労様です。勉強になります・・私も購入検討をします
現役保険営業マン
2008年08月25日 22:14
がくがくダックさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。
…そのような評価をいただき嬉しいです。記事にした甲斐があります。

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